イタリア交響楽団 (ボルツァーノ・トレント・ハイドン管弦楽団) kitara 2019.6.3
歌劇「フィガロの結婚」序曲から、ドイツの田舎のオケのような暖かさがいい。イタリアのオケの「歌心」も多少あるけど、ドイツの田舎オケという感じで、質実剛健の印象。合奏力は高く、これは期待通りだなと感じました。小編成で、南欧の往年の室内管弦楽団を思わせるような自発性を感じる演奏スタイル。指揮のチョン・ミンの若々しい指揮ぶりにも促されているのかも知れないが、好印象でした。
イタリア交響楽団とは、まあ、プロモーションのためとは言え、思い切ったネーミングです 笑。
近年グスタフ・クーン指揮のベートーヴェン交響曲全集などで注目を浴びるオーケストラです。全国6箇所公演の初日。
ほんの二日前にセブンイレブンチケットで確保した一番安い、はしっぽの席(オルガン側)。でも、kitaraは素晴らしいなあ、本当によく聴こえます。
客の入りは、半分くらい・・・中間の価格席がスカスカで、ぼくの座っている一番安い席当たりとS席がたくさん。客の少ない時のkitaraは、いつにも増してよく響きます。ぼくはこのホールが大好きなんだった、そう言えば。いつ以来だろうか。隣のおじさんが常にプログラム(正式購入じゃない一枚ものの配付されてる紙)をいじる音が気になるけれど・・・。
ソリストはイヴァン・クルパン。クロアチア? のピアニスト。若干20歳の2017年にメジャーコンクールの一つであるブゾーニ国際で優勝しています。まだ22歳か・・・。
最初、ウルヴァン、だと思っていたのね・・・で、あれ、クルパン・・・。それで色々気が付いたのですが、音楽家家族の生まれだというクルパンは、ひょっとして、ウラディミール・クルパンのご子息だろうか、いや年齢的には孫?・・・だとすると、この鋭敏な音感覚はわかる気がします。ミケランジェリ直系ですものね。
実にセンシティブで陰鬱なピアノ。ドイツ的でやや陽性でもあるオケとはなんとも言えないアンバランスさです。
ただ演奏スタイルは主情的。カデンツァの特異な音感覚と、コンクールとの本選を担当したオケだからというあたりからくる気安さからか、オケに関係なく自分の世界を構築しようとする若さがすごい。構成を無視して、響きに賭けるといった風情にも。やや微温的なオケの伴奏の中で、破格の可能性を感じるピアニストでした。
喝采の中で弾いたアンコールは二曲。シューマンのアラベスク、そしてショパンの雨だれ。アラベスクの輝きとくぐもり、時に極端なアゴーギクに驚き、その後の雨だれのさらに主情的で自由なアプローチ、時々見せる暗い眼差し・・・将来の楽しみなピアニストでした。
ベートーヴェンの7番は、もうこの数年で何回聴いただろう。ちょっと客の入りの悪そうなオケは、のだめ以来こぞってこれを演奏する。
で、この演奏、チョン・ミン良かったです。父はピアニストとしての技量を基盤としていたわけですが、チョン・ミンは弦楽器。田舎のドイツオケの温もりにカンタービレと若さが加わった感じの、楽しく気持ちの良い7番でした。
1993年にまだ無名のティーレマンがサンタ・チェチーリアを振ったこの7番を、同じkitaraのPMFで聴いた。あの時の快速な歌心を思い出す快演でした。チョン・ミン、伸びるかも。
父のいろんなことで、かなり気持ち的に疲れていたので、無理して予定変更でオケを聴いて良かったと思いました。
音楽があって良かった。自分をチューニングできる方法が備わっていて良かった。
国立に戻ると、桜はすでに切られていました。
それでも、ソメイヨシノに生るタネもあります、不稔の宿命を負うタネ。