「人生は、自分の足に合う靴を探す旅のようなものです」

若い日に、所属する合唱団で、東京混声合唱団の桂冠指揮者田中信昭さんの指導を受けた。練習が終わった後、呼び止められて、「石川さんは足が悪いのですね」とおっしゃった。ぼくは足首を痛めていて、疲労が出てくると足を引きずる。また、両足で立っている時も少しだけバランスが悪い。練習をしながら、田中先生は、それをご覧になっていたのだな、と驚いた。一人ひとりの歌い手を見ていらっしゃるのだろう。

「あ、はい」と少し驚いて、なんとか言葉を返したのだろう。

すると、田中さんは、「石川さん、靴が合わないのですよ。自分の足に合う靴を探しなさい。私はやっと最近見つけることができた。人生は、自分の足に合う靴を探す旅のようなものです」と。

そこにいらっしゃるのに、なんだか透明なガラスを見ているかのような表情でおっしゃった。

古い靴を脱ぎ、また、新しい靴を買いましたよ、田中先生!

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