アートを旅する 2021年4-5月(札響、神奈川フィル、中原悌二郎、ピングー展、浮世絵展など)

中原悌二郎賞創設50周年記念展「& MORE in Station Gallery 展」。

旭川駅ステーションギャラリー。まあ、駅を利用する人自体が少ないのだが、ここは、良いものをしかも無料で展示しているのに本当にいつも客が少ない。コロナに関係なく少ない。こうして悌二郎賞作品のいくつかを見ると、本当に良い作品が並んでいて、この賞のレベルの高さを感じる。一つ一つ立ち止まって見てしまう、心が動く作品群だった。

札響定期637回。hitaru。

神尾真由子さんのグラズノフは、気迫の演奏。神尾さんは良い時と残念な時とが僕が聴く時にはどうにもはっきりしているのだが、今回はよかった。とは言え、時々音程が気になってしまうんだよな。武満の弦楽のためのレクイエムは今回初めて清冽な美しい音楽だなと感心した。シェエラザードは、ソロは先日の日本フィルの豊嶋さんが妖艶とすると、田島さんはどこか楚々としている感じ。ソロは豊島さんに軍配。でも全体の説得力は今回の広上&札響の方がずっとよかった。とはいえ、なんだか浮き立たなかったのは、ぼくの心持ちのせいか。hitaruは、中途半端だな、響きが、と思う。

華麗なるコンチェルトシリーズ。神奈川県民ホール

久々の神奈川フィル。華麗なるコンチェルトシリーズ。山根一仁さんはまだこんなに若いのか。尻上がりに良いメンデルスゾーン。デッドな響きのホールで熱演。音も個性的。往年のエルマンを思わせるような。千住の音にも少し似て、近年こういう個性的な音のヴァイオリニストは少なくなってしまいとても貴重だと思う。

伊藤悠貴さんのチェロもよく鳴っていた。伸びやかで、しかも奔放。合わせるのも上手。遠くアメリカ大陸でドヴォルザークが見たであろう夕日を思わせるような大きな演奏だった。

及川浩治さんのラフマニノフ2番は、及川さんらしいかっこいい演奏。エンターテイナーだなと思う。キザが板についていて素敵だ。ピアノの下にいくつかミスタッチの音がこぼれ落ちているような感じでもあるが、推進力がいい。先を聴いてみたくなる音楽だなあと思う。指揮は、代役の梅田俊明さん。厳しい条件での代演で、オケを魅力的に鳴らして素晴らしかった。梅田さんは前もコンチェルト指揮で都響だったと思うが、合わせるのが上手な指揮者だなと思う。ケレン味がないというのは、こういうのを言うのだろう。

40周年記念ピングー展。

ただでさえ閑散としているサッポロファクトリー。コロナ下で同時刻に鑑賞しているのはぼくも入れて4名だけだったが、見応え満点だった。絵コンテもたくさん。コンテを繋いで動画にしてみたものなどもある。何よりも、そうだった、ピングーはコマ撮りアニメだったんだよな! と。一世を風靡したピングーを今の子たちは知っているのかな。ぼくはずいぶん昔に、好きだった人に、ピングーのペンをもらって、色が出なくなって使えなくなってもずうっと持っていたんだった。長く生きていると、いろんなものに、一つずつ代えがたいエピソードが染み込んだり、張り付いたりしていく。ファクトリーという場所にも、いろんな感情があり、不思議な心もちにとらわれる時間でもあった。

日本浮世絵博物館所蔵「国貞広重国芳コレクション」。道立近代美術館

表題の3人だけではない充実の作家・作品が集結する展示だった。感染が厳しくなってくる時期だったが、観覧者はまだそれなりにおり、もっとも都心で同じ展覧会をやればぎゅうぎゅうかもと思えば、一つずつじっくり見られる環境は喜ばしかった。ぼくは浮世絵にはあまり明るくないのだが、このくらい充実した量の作品を見ると、浮世絵の世界にもアートを極める者、漫画的なアプローチに執心する者、際どい表現を試行する者、様々なのだなと思う。思えば、「浮世絵」というジャンル分けは、西洋絵画をいくつものジャンルに分類して語ることを考えれば、いささか雑すぎるのだろうが、それがいいのだ。

道立旭川美術館の広重展も楽しみにしているのだが、宣言下で閉鎖で、さて見ることができるかどうか。旭川は、次の「江口寿史イラストレーション展 彼女」もとても楽しみだ。いずれにしても、近代美術館はうまいこと間に合ってよかった。

f:id:suponjinokokoro:20210522183938j:plain