最近読んだ本から その45

とにかく本が読めなかった。余裕のない時に本が読める人はすごい。読書力の地力が違うのだと思う。堀裕嗣さんに誘われて『THE 読書術』という本を以前に書いた。これはなかなか良い本だったが全然売れなかったものと思うが、ぼく以外の名うての読書家の読書術は実にすごい。

さて、このところ本を読み進めにくいのは忙しかったからだけではない。ちょっとゆっくり読みたい本があったのである。ぼくは並行読書するわけだが、その時メインで読む本のペースで一緒に読んでいる本のペースも速くなったり遅くなったりする傾向があり、たくさん本がとばっちり受けてしまう。さらにはメインで読んでいる以外の割とライトと思っていた本がなかなか歯応えがあって読み進められないという問題も発生した。まあぼくの見立ての甘さが原因でもある。メインで読んでいる本はこれだ。まだ読み終わっていない。ぼくは昔から評伝や自伝の類のもには好きで好きな分読み飛ばせなくなってしまう。ましてやこれはある意味ヴィゴツキーの評伝的な側面も丁寧に書かれ、彼の思想の出自についての丁寧な分析と見解が示されている。訳の分かりやすさもあって(ぼくは訳がダメだとざらっと読み飛ばしてしまうの常だ)、舐めるように読んでいる。まだ終わらない。もちろんぼく自身のヴィゴツキーに関する基本的な知識の危うさも読み進めるのを困難にしているが(笑)、でも楽しく少しずつ読んでいる。読み終わったらもう一度紹介します。

さて、この本と並行して読んできた本も、これがまたまずかった。川上康則『教室マルトリートメント』。ライトに読めるのかなと思ったら、とんでもない・・・これはもうぼくが日本中で見ている光景と重なって胸が潰れそうな感じでなかなか読み進められなかった。それにしても川上さん、良い仕事をする。すごいなあ。あれだけの忙しさの中でこれを書くというのはもう執念である。「教室で行われる ネグレクト」とか・・・本当に胸が痛い。

この本は少し先に出た武田信子さんのこの本と合わせて読むのがいいだろう。武田さんのもう少し広い射程で書いた本と、この教室の本とを合わせ読むことで、ぼくらの国を覆う毒ガスの臭いがわかる。

武田さんといえば、多賀一郎さんとの対話の形式を取る、こちらもある。こちらは教師教育を義務教育側と大学養成側かどう見るかを差し出し合う中身。しかし双方の理解が重なっていく過程を読む本というよりは、分かり合えないすれ違いのポイントがようよう見えてくる本である。ぼくが1年間メールマガジンを必死で編集したあの時にずうっとぶちぶち考えていたことがここには純度高く刻印されている。

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たとえば、職人芸としての授業のテンポの話が出てくるのだが、ここ一つを取ってみても、お二人の関心が違うところにあるんだな、見え方も違っているようだ、と、まあそういう雰囲気がよく伝わってくる。もちろん違っていることがダメだというのではなく、それこそが重要なのだろう。類書のないものであり、長いこと続く実践と研究との難しい距離感をちゃんと顕在化するところで、ようやくいろんなことがスタートするのだろう。

関連して松尾英明さんに『不親切教師のススメ』(さくら社)を送っていただいた。

これも現場人のもう一つの実感としてとてもおもしろい。川上さん武田さんのマルトリートメントの流れと重なるところも、おそらくはまるで重ならないところもある、提案の書である。「してあげる、をしない」とか、「楽しい授業を、やめる」とか、なかなか刺激的な言葉が並んでいるが、基本的に学校がサーヴィス産業化していくことをめぐる現場からの強い自制と反省、そして、提案の本だ。もっとも、楽しい授業なんてやめように関して言えば、そもそもぼくの実感でいえば、学校はもう楽しい授業ができる人なんてほぼいないと思える。だから楽しい授業できるのなら大いにやればいいよとさえ、松尾さんの指摘はわかりつつ、そう思う。ぼくの見ている様々な現場の実感ベースでだけ書けば、そうも思うのだが、日本にはいろんな学校がありいろんな地域があるのだと改めて感じる。
最後に、校内研究の本。『校内研究を育てる』。

このじみな本は版元も小さいし多くの人に届かないのだろうが、たくさんの校内研修に関わる本を読み、自分自身も関わってきた立場で言えば、瞠目すべき、この10年でもっとも充実した一冊であると思う。たくさんの校内研修に関わる人に読んでほしい。この本の書き手の伊東大介さんには『若手教員とどう歩んでいくか』の号で、そして佐藤由佳さんには今回の『プレイフル』号で、これも素晴らしい原稿を寄せていただいた。本物は静かに座っているものと思う、そこまで行かないと会えないものだ。下草の生い茂った雑木林の中をふみこんでいって初めて見つけられる美しい花、そんな一冊である。

ということで、お二人の論文が載る、授業づくりネットワークも紹介する。