田中雅子さんに書いていただきました。
2017年9月12日。
23号。
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メールマガジン「教師教育を考える会」23号
2017年9月12日発行
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東京都立中野特別支援学校 特別支援教育コーディネーター/認定ワークショップデザイナー
田中 雅子
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第23号は、特別支援学校のコーディネーターとして、次世代のコーディネーターを育てていく体験からの学びを、まとめてくださいました。田中さんご自身が様々な領域の方々との学びを繰り返してこられた、いわば田中ワールドの一端にも触れていただくことで、教師の学びのプロセスを感じ取っていただけるものと思います。 (石川 晋)
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「無理です。私にはできません。田中先生のようにはできないんですっ」(あー、まただ。「同じようにやってみて」って言っているわけじゃないんだけどねぇ。)
特別支援教育コーディネーター(以下、コーディネーター)を一緒にやっている若手教員と小学校の巡回相談に行った帰り道。若手教員に「巡回相談、どうだった?」ときいたら、この返事でした。転勤のリミットが迫っていた私は、早く、次のコーディネーターを育成しなくては!と焦っていました。私の仕事(小学校の巡回相談や校内研修会講師)に若手教員が同行する、いわゆる「鞄持ち」を次世代コーディネーターの育成としてやってみましたが、若手教員からは「田中先生のようには、できません」と言われ、(「鞄持ち」じゃ、うまくいかないな。大人を育てるって、難しい・・・)と思っていました。「教師教育」という言葉も知らない、いまから10年ぐらい前のことです。
1.ティーム・ティーチングでの学び
改めまして「教師教育を考える会メールマガジン」読者のみなさま、はじめまして。東京都立中野特別支援学校教員の田中雅子と申します。
もともとは、小学校教員を志望していたのですが、大学卒業後に採用されたのは特別支援学校(当時は養護学校)でした。教員になるまで障害児・者と関わることは全くなく、もちろんボランティアの経験もなし!そんな私が30年も特別支援学校で教員を続けることができたのは、障害のある子どもたちの魅力にハマってしまったこともありますが、特別支援学校が「ティーム・ティーチングがあたり前」の学校だったからだと思います。教員にとっても「学びの場」であり、まさに毎日が「教師教育」!という現場が特別支援学校です。
2.特別支援学校コーディネーター研究会の立ち上げ
2007年に特別支援教育がスタートし、特別支援学校の役割に地域の特別支援教育のセンター的機能を担うことが加わりました。センター的機能のキーパーソンは、コーディネーターです。勤務校での仕事の他に、地域の小学校などに巡回相談に行ったり、校内研修会の講師などもします。この10年でカリスマコーディネーターも全国各地で登場しています。しかし、公立学校教員に転勤は付き物。カリスマコーディネーターが転勤したことで、コーディネーターの仕事の質を維持するのに苦労している特別支援学校をいくつも見てきました。私も自分の引き際を考えて、次世代コーディネーターの育成をやってみましたが、冒頭の「鞄持ち作戦」は失敗。どうしたらいいのかなぁ、と他校のコーディネーター仲間に愚痴っているときに、「いっそのこと研究会をやってみたら?」と言われました。それがきっかけで「特別支援学校コーディネーター研究会」を立ち上げました。研究会の趣旨は、こうです。
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2009年に準備会を経て、この研究会を立ち上げました。研究会の役割は、3つです。
・コーディネーター間の情報交換やネットワークの場
・コーディネーターが抱えている課題や悩みを話し合う場
・コーディネーターとしての資質を高める研修の場
「特別支援学校コーディネーター研究会」は、受け身の「研修会」ではありません。
参加者がなんらかの問題意識をもって、そして自由にディスカッションできる「研究会」です。
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「自分自身が発達障害の子どもを指導したことがないので、地域のニーズに応えられるか不安です。」
「突然、コーディネーターに指名されました。何から手をつければいいか、わかりません。」
このように「教えてください!」と言って研究会に参加するコーディネーターが年々増えてきました。
3.WSD育成プログラムで得たもの
「ファシリテーター養成セミナー」については、ちょんせいこ先生がメールマガジン16号で書かれているので割愛しますが、そのセミナーで複数のWSD修了生と知り合いになりました。(ワークショップっておもしろそう。コーディネーター研究会にも使えるのかも!)と「WSD育成プログラム」講座を受けることにしました。2015年の秋のことです。(講座についてはhttp://wsd.irc.aoyama.ac.jp/をご覧ください。)
講座の同期約70人、知り合いはおろか、教員もたったの数人(公立学校教員は私だけ)というアウェーな状態。民間企業に勤務する方も多く、同じ日本語を話しているはずなのに合意形成に時間がかかります。まるで武者修行のような(笑)3か月の講座でしたが、修了したときには、すっかり「大人の学びの場」としてのワークショップに夢中になっていました。
ワークショップを「グループワークを取り入れた研修スタイル」と思われている方もいますが、定義は「参加者が自ら参加・体験して共同で何かを学びあったり創り出したりする学びと創造のスタイル」(中野民夫「ワークショップ─新しい学びと創造の場」より)です。ワークショップにはコミュニティ形成、つまり仲間づくりの側面もあります。へんな遠慮や気遣いをせず、お互いに対等だからこそ、安心して自分の意見を言える場、自分の意見や考えに耳を傾けてくれる他者がいる場です。コーディネーターは、学校によっては1人しかいないこともあり、コーディネーター同士で悩みや不安を共有することが勤務する学校ではできないこともあります。「コーディネーターをやってみたい」「コーディネーターを続けたい」「コーディネーターの仕事が好き!」という教員を育てるためには、安心して自分を出せる場が必要です。
4.次世代コーディネーター育成のヒント
内田樹さんが「みんなのねがい」という雑誌(2012年4月号)に「相撲において最優先するのは『たとえ凡庸な身体能力しかもたないものについてでも、そのポテンシャルを爆発的に開花させることのできる能力開発プログラム』を次世代に継承することである。」という話を書かれていました。(http://blog.tatsuru.com/2012/03/15_0854.phpで全文を読むことができます。)
なるほど、さすが相撲界です。私も「特別支援学校のコーディネーターは,こうでないと!」「コーディネーターいろはのい?きほんのき!」というワークショップを昨年から実践しています。相撲界の力士養成をヒントに、私なりの次世代コーディネーター育成のプログラムをさぐっていきたいと考えています。「答えは、私の中にある」と信じて。
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中間管理職、教頭、校長の養成をどう図っていくのか。その専門性を育てる仕組みの心もとなさが、しばしば論じられます。コーディネーター養成のための組織づくりを図っていく、それに伴ってご自分に必要なスキルを向上させていく学びの場に出ていく田中さんの行動力は見事です。
その田中さんから、ワークショップのお知らせです。ぜひお近くの方ご参加ください。
「大人の発達障害」って何?
日時:10月21日(土) 13:30~16:30(受付13:15~)
場所:東京23区内 ※「こくちーず」で正式に申込された方にお知らせします。
参加費:1000円(会場費、ゲストスピーカー謝礼など)
申込:「こくちーず」にてお申込みください。
新たにもう御一方ご執筆いただけることになりました。
3月9日金曜日、藤倉稔さん(北海道猿払村立拓心中学校教諭)です。最北の地で先進的な校内研修を構築する若きリーダー教師です。
次号は、木村彰宏さん(株式会社LITALICOジュニア事業部ヒューマンリソースグループ/NPO法人Teach For Japan採用・研修担当)です。注目を集める二つの組織に籍を置きながら、新しい活動を広範に展開している方です。
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メールマガジン「教師教育を考える会」
23号(読者数2518)2017年9月12日発行
編集長:石川晋(zvn06113@nifty.com)
(まぐまぐ:教師教育を考える会)
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