教師教育を考える会メールマガジン 2017年11月28日 46号

北見俊則さんに書いていただきました。
2017年11月24日。
46号。
 
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メールマガジン「教師教育を考える会」46号
          2017年11月24日発行
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志を明確にして生きる人を 育てる人になろう!
一般社団法人志教育プロジェクト専務理事/      前・横浜市上永谷中学校校長  北見 俊則
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 46号は、北見俊則さん(一般社団法人 志教育プロジェクト専務理事/前・横浜市上永谷中学校校長)。学校長退職後、2年前に立ちあがったプロジェクトに参画し、全国を飛び回っている方、です。   (石川 晋)
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■何故、勉強するの?
 子どもたちの素朴な疑問
「なんで勉強しなくっちゃいけないの?」
に、あなたならどのように答えますか?
 私は「君が、自分の志を明確にする事によって、その答えは湧き上がってくる。つまり、君の中にその答えがある。」と答えています。
私達の大先輩の森信三先生は、
「志を立てるをもって教育は止む」と言っています。
「自分の生涯を貫く志を立てることが出来れば、自ずと何をすべきかわかってくる。」
 つまり志を明確にできれば、与えられる学びはもう終わりで、目的をもって自分の意志で学び始めるのだという事を教えてくれていると思います。
私は、全国の先生、もっというと全ての大人が、子ども達の志を明確にする力をつけ、その志を応援していける仕組をつくっていきたいと思うのです。
■志共育(志を共に育む)の実践
 私はこの3月まで、横浜市上永谷中学校で校長をしていました。全校生徒570人のほぼ全員が、自分の志を明確な一文にし、クラスの中でそれぞれの志を共有するという実践をしてきました。
 志を共有すると、
「あのヤンチャな子が、こんな志を持っているのか!?」
「あのおとなしい子が、こんな思いを持っていたんだね!」
「聞いてしまったからには、応援しなくっちゃ!」
「俺も言っちゃったからには、やらなくっちゃ!」
などという声が聞こえていきます。
 クラスの人間関係が、仲よしから互いの志を応援しあう関係に次元上昇したような感じがしました。
■中学生が明確にした志
 中学生の志をいくつか紹介します。
●車の不具合で困っている人を無くすために、自動車整備士になって一流の整備をすることです。
●本を手に取る人が増えるように、小説家になって、たくさんの人を元気づけることです。
●環境破壊で苦しむ生きもののために、研究者になって、たくさんの生物を助けることです。
●新しい感動のために、映像クリエイターになって世界中の人を楽しませることです。
●社会問題を解決するために、政治家になって、日本の国民を巻き込んでいくことです。
●世界中の女の子たちが一人一人魅力的に輝くために、モデルになってオシャレをすることの楽しさを伝えることです。
 中学生だと2時間くらいの志共育で、このレベルに達します。
 (大人の場合は、人生経験をたくさん積み重ねているので、いろいろな切り口で魂の奥底に秘めている思いを引き出していくことが必要になるようです。奈良時代から続いて来た立志式が、14歳で行なわれていた意味が分かる気がします。)
■夢と志の違い
夢と志の違いを定義しようとすると難しいです。しかし日本人は、とても上手に使い分けています。
 「お金持ちになるのが私の夢です。」とは言っても、
「お金持ちになるのが私の志です。」とは言いません。違和感があります。
 「お金持ちになって、世界中から飢餓を無くすことが私の志です。」と言ったら納得できませんか?
 夢は、自分ごと。
 志は、誰かのために、社会のために、明日のために。
 人から見ると
 夢は、どうぞご勝手に!となりますが、
 志は、応援したくなる!そして、その人の人生では達成できなくても、その志をリレーしバトンを繋いでくれる人が出てくる可能性がある。
 そんな区別をしておきたいと思います。
■志=人生でやるべき事
 志とは「人生でやるべき事」です。
 人は皆、生まれてきたことに意味があり、良い世の中を作るために役割を分担しています。それが使命(命を使ってすること)であり、使命を明確な一文に表したものが志です。
■志共育の実際
自分の志を明確にするためには、心の奥底にある不動のもの=魂に刻み込まれた使命にアプローチをしていきます。
 アプローチの仕方はいくつかありますが、中学生の場合「良い世の中をつくるために、自分がどんな分野を分担しているか」知るところから始めます。
 それがたった2つの質問で分かるのです。
1)COOLかHOTか
2)DRYかWETか
 この答えは、日本に古くから伝わる一霊四魂と言う考え方(1300年も前に書かれた日本書記にすでに現されてる考え方)を元にしてつくられています。
役割が、四つの魂の機能「勇愛親智」に分かれます。生徒達はそれぞれの特徴を知ることで、自分への理解を深めていきます。さらにこの「四魂の窓」を活用することにより、自分と他者の本質的な素晴らしさを観ることができるようになるのと同時に、人間関係の改善、自分自身の成長にも役立てる事ができます。
 劇的な一つの例として、不登校の親子が校長面談に来た時にこの四魂の窓を使って親子関係を見直したら、翌日から不登校をやめたということもありました。
■人の本質的な素晴らしさとは
人それぞれのもち味、個性、短所や長所というものも、人生でやるべきこと=志に密接な関係があると考えています。生まれた時から使命があり、すでにそれをやり続けているとすれば、その人なりの生き方をすでに表現しているはずなのです。
 私の場合、何でも思いついた事はすぐにやってみようと思う人です。「こんな素晴らしいアイディアはかつてなかった。」と勝手に思い込み、どんどん進めていってしまう性格です。これは、周囲にいる人にはとっても迷惑です。和を乱すし、よく考えていないし、勢いだけで迷惑な話です。そう観ると大きな短所です。
しかしこんな人がいるからこそ、物事が前進していくと観れば、長所にも観えるということです。
 つまり、短所と長所は表裏一体で、それを越えたところにその人の本質的な素晴らしさが観えてくるのです。
 生徒達はペアワークなどを通じて、友達とそれぞれの本質的な素晴らしさを伝え合うということをします。
■動詞を軸に志を表す
 夢は寝ていても見られる。いや、寝ているからこそ見られます。しかし、志は明確にしたら動きださないと意味がありません。
 ですから、動詞を大切にします。
自分の役割に関連した「動詞表」の中から、自分にぴったりくる動詞を選びます。その動詞を軸に、「誰を対象に?どういう手段を使って?何のためにそれをやるのか目的は?」と順に文章を作っていきます。そうすると、とりあえず一文になります。
■志を磨きあう
出来た一文は、まだまだ練る必要があります。日本語としておかしかったり、意味が通じなかったり、同じ様な言葉が繰り返されたりしています。
 でも、まず声に出して言ってみることが大事です。ペアワークで、やってみます。ペアの相手の志を聴く人は「相手の本当の志は何だろう?」と聴き、聴いた後に自分に伝わってきたことを相手に返してあげるようにします。
この様なペアワークを何回か繰り返すと、自分の中にフィット感や違和感が出てきますので、より自分にぴったりの言葉に修正をしていきます。
 3~4回繰り返すと、かなり自分の腹に落ち納得できる文章になってきます。
それを自分の志として一旦置くようにします。
 こうして生徒の中に、志の苗ができます。これを機会ある毎に見直し、育てていくのです。
■教育課程への位置付け
 上永谷中学校では、総合的な学習の時間を3時間使って各学年で取り組み、キャリア教育や進路学習に繋げています。
 1時間目は、四魂の窓を使って、自分と他者の本質的な素晴らしさに気づく
 2時間目は、志動詞を軸に志の一文をつくり、磨き合う
 3時間目は、クラスの中で、一人一人の志を共有する
と言う流れで行ないました。
■自己肯定感・役立ち感が上がる
 生徒達には、志共育に取り組む前後で、自己肯定感や役立ち感についてアンケートを取りました。
「1凄く思う」「2とても思う」「3そう思う」「4そう思わない」「5とても思わない」の5段階で回答を求めたところ、1+2の合計が顕著な変化を示しているので紹介します。
「志=自分のやるべきことが明確になりましたか?」という質問に対して、
Before 17% → After 58%
「自己肯定感=自分はここにいていい、大切な存在で、生きる価値がある
という感覚」
Before 23% → After 58%
「役立ち感=クラスや社会の役に立てる」
Before 16% → After 49%
 わずか3週間(3時間扱い)で志共育に取り組んだ結果です。
■全ての先生が「志共育」に取り組める環境づくりを
 何のために勉強するのか?
何のために生きていくのか?
 そんな根元的な疑問に正面から答えていく事ができる教育をしていきませんか?
 教科教育や特別活動、学校行事、情報教育や食育・・・様々な教育活動がパソコンのアプリケーションソフトだとすれば、志共育はパソコンを動かすOSだと言えるでしょう。OSがバージョンアップすると、全てのアプリケーションが順調に動き出す。そんなイメージを持っています。志共育は、それほど教育の根幹に関わる最も重要なことだと訴えていきたいのです。
 全国各地の中学校では、志教育に取り組んだり、立志式を行なっている学校もあると思います。しかしながら、生きている意味や使命から問い直していく「志共育」を行なっている学校は少ないのではないでしょうか?
私自身は定年退職を機会に、志教育プロジェクトを通じて、この「志共育」を全国へ、さらに世界へ広げていこうと覚悟をしています。この活動を一緒にしていく同志も求めています。
一般社団法人志教育プロジェクトでは、志共育の基礎を学ぶ講座を準備しています。多少お金はかかりますが、教師としてのあり方、考え方、教師としての基盤となる部分をしっかりご自分のものにするために価値ある講座内容であると思いますので、ご案内いたします。
 また、個人的な相談もお受けしますので遠慮なくご相談ください。
kitami@kokorozashi.me
 お待ちしています。
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 子どもたちはもちろん、教師も、様々な条件の中で、自信を失いつつある状況が続いています。今年度、現場に様々な形で支援に入りながら、現場時代に感じていたことを、より実感しているところです。教師自身の意欲のマインドセットも、とても大きな課題だと感じています。どんな形・方法がいいのか…。北見さんのアプローチに、そういう視点からも大変大きな注目と関心を持っています。
 次号は、12月5日火曜日。斎藤早苗さん(元・愛知県小牧市立小牧中学校PTA会長)。PTAの会長として経験・立場から、精力的な発言と活動を続けて、執筆活動もされてきた方です。
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メールマガジン「教師教育を考える会」
46号(読者数2553)2017年11月28日発行
編集長:石川晋(zvn06113@nifty.com)
まぐまぐ:教師教育を考える会)
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