教師教育を考える会メールマガジン 2017年12月8日 48号

宇都宮美和子さんに書いていただきました。
2017年12月8日。
48号。
 
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メールマガジン「教師教育を考える会」48号
          2017年12月8日発行
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栄養教諭四方山話
  帯広市立稲田小学校栄養教諭
  十勝清水食育ネットワーク事務局長
                  宇都宮 美和子
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 48号は、宇都宮美和子さん(帯広市立稲田小学校栄養教諭/十勝清水食育ネットワーク事務局長)。日本の食糧生産の中心地の一つでもある北海道十勝地区の学校から栄養教諭として精力的にご発言を続ける方です。
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・自己紹介
 皆さん、こんにちは。北海道は十勝、帯広市立稲田小学校栄養教諭の宇都宮美和子と申します。
 学校栄養職員から平成17年に栄養教諭に任用替えとなり、本校で3校目の勤務となります。
 帯広市十勝川がもたらした肥沃な大地<十勝平野>のもとに位置します。農畜産物に豊富に恵まれ、給食でも多くの地場産物を使用し、北海道で1番、日本で3番目の食数1万4千食の子どものお昼ご飯を提供することができています。現在、栄養教諭5名、帯広市職員の栄養士2名の7名と145名の調理員で給食運営を行っています。なかなか大変な現場ではありますが、やりがいもあるといったところでしょうか・・・。
栄養教諭って?
 まだまだ、制度化されて間もない栄養教諭という職種ですが皆さんの学校には配属されていますか?近年は、私のような任用替えではなく教員採用試験を経て学校に入ってくる優秀な栄養教諭が増えてきました。北海道・十勝にも新採用の栄養教諭がどんどん配属されてきています。
 栄養教諭の本務は「食に関する指導と給食管理を一体で行い、学校での食育推進に中核的な役割を担う」と定義され2005年度に導入されています。が、栄養教諭の配置は各自治体に委ねられています。学校栄養職員の兼務発令を受け学校給食センターなどの調理場での給食管理なども業務となっています。いわゆる「二足のわらじ」での仕事をしています。
 栄養教諭養成の大学を卒業し、夢と希望にあふれて配属されてきた栄養教諭がまずぶち当たるのは「調理場」という大きな大きな試練です。みな一様に、大学で学んできた「食教育」や「食育」を実践したくてワクワクしながら発令地へ向かうのですが、そこに待っているのは、自分のものにするのには3年はかかる調理場での給食管理です。中には、「1週間、調理場で寝泊りしました・・・」という過酷な自治体もあるようです。調理場の中での栄養士の役割は膨大です(私は機械整備やボイラー点検などもやっていたこともあります)。親の年齢ほどの調理員さんに指示を出すのですから遠慮をしていると「あっ?!」という間に給食も塩梅が悪くなってしまいます。栄養教諭として生き残るにはなかなか過酷な現状と言えます。
栄養教諭ならではの取り組み
 私たち栄養教諭の最大の武器は「献立」をもっていることです。調理場から学校に送り出した給食を子どもたちが食べるところを見ることができます。これは、献立作成においてとても有効です。調理場で美味しくできあがっていても、「食べる頃には、こんなに味が変わっているのか・・・」と衝撃を受けたものです。栄養教諭になり学校現場を知ることで集団調理にむいている献立、むいていない献立が明確になり献立改善および子ども達にふさわしい給食、子ども達が求めている給食に近づけていくことができました。また、学校に配属になったことで取り組めることが多くあり、子ども達の発達段階にあわせ系統だった食に関する指導をすることができました。
 1年生~実物提示授業・・・本時の献立食材に触れたり匂いをかんだりして食品をあててもらいます。食材は働きごとにわけて板書していき、給食にはバランスよく食品が使われているということを知ることができます。
 2年生~収穫及び調理場見学・・・給食センター試験圃場で栽培している作物を収穫し、調理場へ運び給食になるところを見学します。土に触れ、収穫した食材が自分達の給食になっていく様子は子ども達にとって食べることへの意欲につながります。
 3年生~給食はどこから来るの?・・・給食センターの一日をプレゼンテーションソフトを使用してクイズ形式で学びます。昨年、見学室から見た調理場の様子を「手洗い」から「洗浄」まで細部までは見られなかった様子を知り給食への関心をたかめます。
 4年生~総合を使った栽培・・・学校菜園で栽培から収穫までを行います。前任校の清水小学校では食育の柱とした町特産品の「大豆」を「畝きり」「播種」「草取り」「枝豆収穫」「にお積み」「収穫」「自分たちで考えて食べる」までを地域生産者の方にも関わっていただき1年間かけて行い感謝の気持ちを持たせます。
 5年生~家庭科の単元を使いプロの料理人を招き、献立作成・・・調理技術などを調理実習で学びます。大豆を用いたメニューを教わり、地域や生産者への関心をたかめます。
 6年生~家庭科の単元を使い大豆を用いた給食の献立を作成します。昨年までの授業で学んだことを活かしICTを活用した授業として取り組みます。実際に給食となるメニュー作成なので子ども達も責任をもって取り組み誇りを持たせます。
 上記は一例ですが、系統立てて食に関する授業を行うことで担任を持つ先生方にも「来年はこの取組」「今年はこの取組」と年間計画に組み込んでもらえてスムーズに行うことができています。
・担任の給食指導の偉大さ
 学級で給食を一緒に食べていて、いろいろと感じることはあるのですが、担任の先生の指導は私が行う指導の何倍も威力があります。「おっ!今日のキンピラおいしいぞ!先生、おかわりするよ。みんなは?」などと声かけをしてくれると、ほぼ全員が「おかわりするーーー!」と手をあげます。栄養や食材のうんちくよりも「担任の鶴の一声」と何度心の中で呟いたかわかりません・・・。また、本務校では教卓で給食を食べる先生が多かったです。「なぜ?」と尋ねたところ、「子どもの様子を見渡せるから」「あら、あの二人は喧嘩をしたかな?」など「食事の時には、素が出るので様子がわかりやすい」と聞き、なるほど深いと感心したものです。また、「班に入って食べていて、離れた席の子が吐いたのに気づくのが遅くなっちゃったことがあるんだよね。心細い思いをさせて申し訳なかったから・・・」などの話も聞きました。また逆に、班に入って一緒に食べる先生からは「給食の時って口も開くけど心も開くよね。だから気になる子のところで一緒に食べる」などと学級経営とは深いものだと、また担任は偉大だと心から思いました。
・うまく栄養教諭を使ってください
 多くの先生方に、「年度初めに給食のマナーなどをやってもらいたいけど・・・。栄養教諭の先生は給食のこともあるから忙しいよね・・・?」とねぎらいの言葉をかけてもらえます。その通りではあるのですが、栄養教諭は食に関するいろいろな提案をしたいのです。私のように図々しく「家庭科ひとコマちょうだい~」「生活科でこれやらせて~」「今日は一日学校にいるので給食よろしくね!」と言える栄養教諭もいれば、「どうしよう・・・」「何かやらなくては・・・」「でも調理場から離れられない・・・」と一人思い悩む栄養教諭も少なくないと思います。新採用の栄養教諭に何度悩みを相談されたかわかりません。
 ざっくり言えば、栄養教諭は配置校の職員です。学校から
「この内容で食の指導を」と声をかけてもらえれえば大義名分ができます。私はつたないながらも分掌もし、学校の行事にも勿論かかわり「学校の職員」として仕事をしています。それは、「学校で仕事を与えてもらっている」からなのです。どうぞ、遠慮なく栄養教諭を活用してください。そして、栄養教諭に見事採用された皆さん、どんどん学校で「私はこんなことができます」とアピールしてください。
・終わりに
 難関の栄養教諭採用試験に合格し四苦八苦している先生方、これから栄養教諭を目指す夢一杯の学生の皆さん。月並みですが、スキルアップに労を惜しまず、勉強しましょう。知識はもちろんですが、調理技術も磨きましょう。釜のひとつも回せず(学校栄養士用語)に調理員さんに指示を出してもそれは道理が通りません。コミュニケーション能力が社会では必須項目です。実際には足元にも及ばないほどの経験を積んでいる20年30年選手の調理員さんに指示を出す、出さなければならない立場ですが「学びの姿勢」がとても大事です。わからない事は聞く、そして自分の意に反していたならばとことん相談しましょう。(何がわからなくて何が納得いかないのかさえもわからないのは勉強不足)時には相手をたて自分を引っ込めることも大事です。コミュニケーションが成り立った時に「自分の献立」が子ども達の給食として届くことになるでしょう。今は初任者研修が充実しているので、アンテナを張り巡らしお手本にしたい栄養教諭の学校と調理場へ研修に向かいましょう。そしてどんどん何かをつかみ自分のものへと吸収していってください。
 ちなみに・・・。私の仕事でのモチベーションは、巣立っていった子ども達が成人式や同窓会で「俺は、私は、あの給食が好きだったなぁ。また食べたいなぁ。」と、ほんの一瞬でも話題にしてもらえることです。「先生の給食のおかげで、こんなに大きくなったよ!」などと声をかけてもらえると倒れそうになるほど胸がきゅっとなります。
味覚の臨界期でもある小・中9年間およそ2000回三食の中の一食を担うこの仕事。責任も大きいですが素晴らしい、かけがえのない仕事です。
 「大変」と感じるか「やりがい」と感じるかは自分次第だと思います。私も日々、膨大な仕事をワクワクに変換し子どもたちに、そのワクワクを返せるように努めています。
 長々と思いのたけを書き連ね、読み苦しい文を最後までお読みいただきありがとうございます。
 私自身も、まだまだ学びの途中ではあります。これからもご指導ご鞭撻いただきますようよろしくお願いいたします。
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 宇都宮さんのお仕事には、十勝郡部の小学校での栄養教諭時代から注目していました。帯広は十勝の中心都市なわけですが、そこでの「今」がびんびん伝わる素敵な論考でした。ちょっと、編集人なのに…読みながら感動してしまいました。
 栄養教諭という、比較的新しいポジションは、社会的認知だけでなく、学校内においても、まだまだその仕事の全容が理解されているとは言えません。そういう新たなポジションを選んでいく人たちの、学びの道筋づくりに真剣に取り組む宇都宮さんのお仕事を、大変リスペクトしています。
 次号は、12月12日火曜日。前田康裕さん(熊本大学教職大学院准教授)です!
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メールマガジン「教師教育を考える会」
48号(読者数2559)2017年12月8日発行
編集長:石川晋(zvn06113@nifty.com)
まぐまぐ:教師教育を考える会)
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