平井良信さんに書いていただきました。
2018年3月2日。
70号。
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メールマガジン「教師教育を考える会」70号
2018年3月2日発行
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open & share から始める最初の一歩
~ナレッジマネジメントの概念を活用して~
有限会社カヤ 代表取締役 /
明日の教室DVDシリーズ制作・販売者
平井 良信
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 70号は、平井良信さん(有限会社カヤ プレイフルプロ
デューサー)。京都の明日の教室の記録をDVDとして制作し、全国に発送することで、教員の技量アップを支援してきた方、です。 (石川 晋)
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◎自己紹介から
有限会社カヤの平井と申します。ご存知無い方はご存知無いでしょうが(笑)。9年前から明日の教室(注釈1)DVDシリーズを手掛けています。
最初に教育については全くの素人であることを申し上げなければなりません。特別講師で何度かお話ししたことはありますが、教師の経験はありません。予め、そういう認識を持ってお読みください。
少し長くなりますが、私が教育に関わることになった経緯からお話しさせていただきます。
この頃「ナレッジマネジメント(knowledge management)」
(注釈3)の概念に出会います。仕事の件名毎に撮影に関するあ
らゆる詳細な情報(約100項目)をエクセルに打ち込み誰でも
見られる形式知(注釈4)にして共有することを、とある企業に
提案(注釈5)したこともあります。
◎教育との出会いから
私の勝手な思い込みですが、先生達が最も不得意とする分野の学習活動だと思ったのです。それは先生は教えるのでは無く、コーディネートしたりプロデュースすることに慣れていないのではないか。もっと端的に言えば何をしていいのか分からないのではないかと直感したのです。そこで、その頃やっと普及しだしたインターネットを使って毎日調べていたら、全国のいろんな先生方が「総合学習」を先行して実践されている事例をホームページで発見しました。これだと思い、早速ナレッジマネジメントの概念をベースにBBSで意見のやり取りをするTKF(teacher’s knowledge forum )を立ち上げました。(それでドメイン名はsogogakushuなのです) 集めた先行事例を教科書代わりにして自分の考えを加味して実践し、それをみんなでシェイプアップしていけばいいと。
今ならSNSで一発で出来るのですが、早過ぎたようです。毎日インターネットを見ては、これはというコンテンツがあれば、これこれしかじかでと言っては転載の許可を得て、TKFのページに載せました。面識もないいろんな先生にお願いしたのですが、忘れられないのが山形のS先生です。素晴らしい実践事例ばかりでどんな先生かと思っていましたが、12年後「明日の教室」でお会い出るなんて嬉しくて光栄でした。その先生は明日の教室DVDシリーズ第28弾の佐藤正寿先生です。
2000年ごろは、毎週先生達の集まる勉強会や講座等に参加して名刺交換させて頂きました。それがそもそもの始まりです。沢山の先生方と知り合い、TKFの概念をお話しして協力をお願いしましたが、ほとんど共感を得られませんでした。そもそも私の伝え方が悪かったのでしょう。しかし、20年近くやってきましたが、何の成果も出せていないのは、そういった考えというか概念がないからなのでしょうか。いやそうではなく学校の教職員のチームワークが無さ過ぎることが一つの要因だと思っています。しかし諦めずに提案し続けるつもりでいます。
今も、興味のある講座や勉強会に参加しますし、縁のある先生や教育委員会の方々の許可を頂き学校に行き普段の授業も沢山見させていただいています。(1、2月は5校の小中学校へ行き授業風景の写真を撮らせて頂きました)たまには写真を撮ったり映像で授業を記録させていただいています。
◎「学び」とは
学びはどこにあるのか。どのようにあるのか。建築家の香山壽夫氏もおっしゃってますが、「人間が生きていくことは、前の世代からいろんなものを貰って後ろの世代にやるってことだけ」「生きることって、ほぼ学ぶか教えるかである」と。また林竹二は「学ぶことは変わること」とも言っています。
人は空気を吸うように、毎日新しい何かを取り入れていると思います。取り入れるということは、入れる入れないの判断も含めて大きい意味では学んでいるとも言えます。机に向かっていることだけが学ぶことではありません。ふーんと思うことも学んでいると言えるでしょう。つまり、生きると言う事は毎日見るもの聞くもの感じるモノから学んでいるということと同義なのです。どうしてこういう風に考えるのかといいますと、学びは自分自身の中から立ち上がる、湧き上がると思うからです。そこに対して外部からの刺激といいますか働き掛けは大事なのですが。
またkeywordはopenです。森羅万象から受け入れて学ぶということは、こちらも開かれた状態でなければなりません。相互に学び合うのです。先生という立場で言えば一番は子どもから毎日学ぶことでしょう。
◎教師教育について
私は、困ったり悩んだりしたら、直ぐに誰彼となく聞きます。逆に聞かれたら知っていることを全て話します。そんな風にやり取りしたり意見を戦わせることは楽しいことですし、その中での気づきや学びが大きいことを何度も経験しています。そういう意味で、教師教育にはいろんな形が考えられるでしょうが、大事なことは現場での実践だと思います。つまり現場でのOJT(注釈5)が重要です。やってみて、ダメなら違う方法を試してみる。その時に周りの先輩や同僚の意見やアドバイスが有効ですし、メンターとしての立ち位置も重要です。お互いの授業も見合う。つまり学校現場の教職員の連携、チームワークが大事だということです。その中で私が思うナレッジマネジメントの概念が機能すれば良いのではないでしょうか。実践知を共有して学校知・集合知がどんどん増えていけば学校文化が構築できます。出来れば1つの学校だけではなく、地域の学校で、更に全国でネットを活用していけばいいのではないでしょうか。ただ、それぞれの「知」が伝わればいいのではありません。完全なコピーはあり得ませんからAがA'いやBやCになったり、GになったりZになっているかも知れません。その突然変異的な新しい「知」が産まれることこそ重要だと思います。SECIモデル(注釈6)の形式知と暗黙知の繰り返しの中から生まれ出てくる新生「知」にこそ未来があります(ちょっと大袈裟ですね)。
実は、1月31日に開かれた京都府八幡市立美濃山小学校の公開研究発表会に私も参加していました。このMMの66号の渡辺貴裕氏も報告されていましたが、すばらしい公開授業と研究発表会でした。藤原由香里先生に許可を得てスタッフ腕章を巻いて写真撮影もさせて頂きました。授業もすばらしかったのですが、何よりも研究発表会で研究主任による発表だけではなく、教師全員による寸劇を用いたこれまでに至る経緯の発表の表現スタイルに感動しました。学校全体としての一体感が感じ取れました。私が思う教師教育の現場としての理想まで近付いておられると思いました。写真にその欠片でも記録出来ていれば良いのですが。そして、来年度もなんらかの形で関わらせて頂ければと願っています。
また、最近明日の教室のDVDシリーズも校内研修で使われ出しているようです。そのような声が(注釈7)届いています。
みなさんにお送りするDVDの送付状にもこんなメモを付けています。
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このDVDをぜひ皆さんで共有してください。
そして、感想や意見を交換して下さい。 校内研修・研究会で
使っていただいても良いかも 知れません。
いろんなシーンでの使い方に期待しています。
kaya 平井良信
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しかし、考えてみれば日本国中の素晴らしい実践家や大学の先生47名のみなさんのご講演や模擬授業を、仕事とはいえ、現場でみて聞いて、なおかつ編集チェックで4~5回じっくり見ている私が一番学んでいるのでは無いでしょうか。いつかみなさまにも恩返ししないといけないと思っています。
◎最後にご提案を
●提案1
自ら学び取りみなさんで情報共有することが肝要です。
今やネット上にあらゆるデータが山積しています。例えば
ワードやエクセルの使い方、コンピュータトラブル等々で困った時は検索ワードを入れれば即座にいくつもの答えが返ってきます。
そこで、教育情報を全国の教師がネット上にアップする。例えば月に1つでもアップすれば900,000の教育情報が集まります。1年で1000万件。もちろん簡単でもタグ付けして、自動で分類されるようにすれば精度の高い答えが出るでしょう。オープンに出来なければ閉鎖系で行えばいいと思います。
つまり教職員みんなで、ビッグデータを日々積み上げるということです。いきなり全国は無理でしょうから、学校単位など出来る範囲から始めませんか?
※一度「国語 指導案」と打って検索してみてください。
●提案2
この教師教育のMM47号で斎藤早苗さんもおっしゃっていましたが、みんなで授業を見合うことは非常に重要だと思います。しかし、なかなか時間が取れません。そこで授業を映像で記録することをお勧めします。
映像フォーマットは、
1カメ(Tカメラ)教室の後ろから黒板いっぱいのサイズで撮影。
2カメ(Cカメラ)前から子ども達を広角で撮影。
出来れば、簡単な編集(1カメ、2カメの切り替え)をする。
それから、授業後、授業についての想いを語るインタビュー10分程度。(ノン編集の1カメの映像だけでもokです)
これを基本にして、授業ビデオを記録してみんなで見合うと言うことでいかがでしょうか。
まずは各学校で、将来的にはネットで見えるようにして地域連合。更には全国ネットでやれたらいいなあと夢想しています。
例)熊本県内小中高のICT授業映像
更に、いきなりは難しいでしょうから、私が1日お伺いしてこの手法で撮影、編集をさせていただいてもいいかなと考えております。
条件・仕様は、(基本的にボランティアです)
1) 大阪からの交通費と場合によっては宿泊費と経費5千円(機
材送料等々)※実費精算
2)1日で2つの授業を撮影して簡易編集
3)DVDにしてお渡しします。
4)その映像を使った校内研修の記録を読ませてください。
以上4点です。
もちろん映像は許可無く外には出しません。
まずは3校ぐらいのご希望にお応えしたいと思っています。
kaya@sogogakushu.gr.jp までご連絡ください。お気軽に。
注釈1
ようこそ、「明日の教室」へ。
「明日」という言葉には、文字通りの「明日」という意味と
「未来」という意味が含まれています。 とにかく、「明日、
どうしたらいいの?」と不安な毎日を送っておられる若手教
師のために・・・ 「未来の教室、教育について共に学びた
い」と希望に燃える若手教師&教師志望の学生のために
・・・よりフラットな関係で、腹を割って話し合える場を創
りたいという一心で立ち上げた研究会です。
明日の教室が、もっと楽しく、素晴らしい学びの場となるよ
う、学び合いましょう。
代 表 : 糸井 登 立命館小学校教諭
事務局長 : 池田 修 京都橘大学教授
明日の教室DVDシリーズは、その研究会の模様を映像で記録して見やすく編集しました。
今後の発売予定のDVDは、3月は第56弾野中信行先生(5枚目)、4月は第57弾金大竜先生、5月は第58弾でお待たせしました糸井登先生と池田修教授です。乞うご期待!
SOYA DVDシリーズ、kaya DVDシリーズ、野口芳弘先生DVDシ
リーズも
注釈2
マルチイメージスライドとは80年代パソコンの進歩に伴い
ハード面で様々なコントロールができるようになったことで、複数のSLIDE PROJECTERを使用して静止画であるスライドフィルム映像がスクリーン上で動画のイメージとして展開することで、幅広い表現ができるようになりました。ビデオ映像が出現するまで企業・団体のイベントなどで広く利用されました。
※当時、松下電器さんの新商品発表会で毎年いろんなマルチ
スライドを制作しました。静止画ですが、大型の画面に投影
された写真は大変綺麗で印象深かったです。周年記念事業で
はレーザービームと合わせて上映したこともあります。9台
のスライドプロジェクターで横2面のスクリーンをよく使い
ました。それから、私もApple IIeでマルチスライドのプロ
グラミングもしていました。
注釈3
注釈4
形となって表に表れているため、誰にも認識が可能で、客観
的にとらえることができる知識である。 wikipediaより
注釈5
企画書「ナレッジマネジメント」
注釈6
※しかし、私が思うOJTは誰かが指示し指示されるという関
係ではなく、お互いに学び合うことです。
注釈7
SECI(セキ)モデル
当初の自分の想いが、共体験(共同化)をつうじてことばにな
り(表出化)、コンセプトになる。それが集団に共有される
(結合化)。さらにそれが正当化され、スペック、マニュアル
に展開され、組織の"知"になる。それを実現するために全人
員が、それに関わった人が実践を通じて、この"知"を自分の
ものにする(内面化)。その際、個人の存在は一周りも二周り
も大きくなっている・・・。
「知識経営のすすめーナレッジマネジメントとその時代」
より P124 野中郁次郎/紺野 登
注釈8
●参考文献
マイケル・ポランニー「暗黙知の次元」高橋勇夫訳
野中郁次郎/紺野 登「知識経営のすすめーナレッジマネジメントとその時代」
香山壽夫 「プロフェッショナルとは何か?若き建築家のために?」
岸田 秀 「ものぐさ精神分析」
池田晶子 「14歳からの哲学」
苫野一徳 「勉強するのはなんのため」「子どもの頃から哲学者」
岸見一郎 「アドラー心理学入門」
林 竹二 「学ぶこと変わること」「授業 人間について」
佐藤 学 「教師たちの挑戦─授業を創る、学びが変わる」
石川一郎 「2020年からの教師問題」
堀 裕嗣 「よくわかる学校現場の教育心理学」
「教師力ピラミッド 毎日の仕事を劇的に変える40の鉄則」
ちょんせいこ「学校が元気になるファシリテーター入門講座」
木村泰子「みんなの学校が教えてくれたこと」
資料
平井良信 講演資料 「個人知から学校知・集合知へ」
付録
いつも教室に行ってみて思うことがあります。それは黒板の見え方の問題です。
後ろの席からは黒板の下の文字はかなり見えにくいと思います。聞こえない、見えないはストレスになりますのでご注意下さい。ぜひ一度、子どもになって後ろの席に座って黒板を見て下さい。
注釈など
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平井さん、ありがとうございました。学校の外から、教員の研修支援に映像を媒体として関わってきた方らしい、様々な視点からの多岐にわたる話が盛り込まれていて楽しかったです。
平井さんの記録写真は素晴らしいですよ。ぜひ、声をかけて学校まで来てもらってください。平井さんは子どものはっとする表情をファインダーに収めるプロなのです。