2023年をアートで振り返る

今年をアートで振り返る。

ベスト10を選ぶのは毎年迷う。明日選んだらまた変わるのかも知れない。

惜しくも選外になったのは、ジュスタン・テイラーチェンバロリサイタル(王子ホール、1/10)、ドーリックSQ(紀尾井ホール、3/7)、矢井田瞳Billboard東京、4/2)、ウルバンスキ&リシエツキ、東響(ミューザ川崎、2/22)、ペトレンコ&辻井、ロイヤルフィル(サントリーホール、5/20)、荒井良二展(横須賀美術館、7/9)、ギリヤーク尼ヶ崎旭川買物公園、7/17)、ソールライター&平間至写真展(渋谷ヒカリエ、7/22)、小谷美紗子(hakujuホール、9/15)、テレマン室内オーケストラ(東京文化会館小ホール、11/28)、クレール・デゼールピアノリサイタル(国分寺いずみホール、12/16)、goodmorning no5「失うものなどなにもない」(下北沢小劇場B1、12/18)など。

 

ベスト10は見た・聴いた・触れた順番に。

 

・マリアンコンソート(東京文化会館小ホール、2/21)

 古楽アカペラはこれまで何度も聴いてきたが、その中でも自発性と、希望を感じる暖かさと明るさがよくブレンドした出色の演奏でした。

2月21日の記録に。

 

BLUE GIANTイオンシネマ旭川駅前、4/11)

 アニメーションでジャズ漫画というそれ自体新奇と言っていいジャンルのものをどう表現するか。一流アーティストの力を借りるのは当たり前として、アニメーションとしての新しい表現方法にこだわり抜いた力作だった。ほとんど映画を見なくなった自分が感動した。

 

・札幌交響楽団大植英次&ガブリーロフ(札幌hitaru、4/11)

 大植のショスタコーヴィチの5番はそれなりに面白かったのだが、やはり、ガブリーロフだ。世界の頂点を極め、その後心を病んだと伝えられるガブリーロフのラフマニノフ2番はバケツ一杯音符がピアノの下にこぼれ落ちていくようなひどいものだった。そのひどさを目撃しながら、激しく心が動かされる。今も十分な言語化はできない。

 

・オーベルニュ室内管弦楽団&ツェートマイヤー(武蔵野市民文化会館大ホール、4/14)

 ツェートマイヤーの弾くバッハの協奏曲は、今望みうる世界最高峰のものだと思った。気を失いそうになるほどの演奏だった。もちろんそのツェートマイヤーと見事に歌を紡ぐ室内管の技量も素晴らしかった。

それぞれ4月11日と4月14日の項目に。

 

山田和樹東京都交響楽団三善晃反戦三部作」(東京文化会館大ホール、5/12)

 この三部作を死ぬまでに全曲これほどの水準で聴く機会があるとは思わなかった。三善はすごい。彼は絶望を知る作曲家だったのだと改めて思う。満席は希望だった。こんな世界でいいわけがないと、たくさんの人が思っているんだ。今年どれか一つだけと言われたら、この演奏会を選ぶことになる。

5月12日の項目に。

 

・野外劇団楽市楽座「炎の鳥」(矢川上公園、5/28)

娘さんご夫婦が劇団を離れてから初めて見る舞台だった。宝塚へのオマージュに満ちた美しい芝居。これまででも最高だった。そして二人の老いを背負いつつ日本中を旅して歌い踊る姿に自分が自然と重なった。泣ける。

5月28日の項目にて。

 

・福北寄席名寄・風連公演(名寄市風連風っ子ホール、9/17)

 玉川太福さんと瀧川鯉斗さんの二人の若手・中堅人気芸人を看板にした公演。こんな田舎までやってきてくれて、一流の芸を見せてくれる。この地域でなら何年に一度しかない機会なのだ。うららさんにも見せることができた。会場は年寄りばかり。「寄席を楽しむ」ということがちゃんと文化になるためには、頻度が必要なんだ。ぼくもボロボロになっても、地方の果てまで膝詰めの距離でぼくの見ているものを話さなくちゃいけないと思う。

 

・ディーン・ボーエン展〜オーストラリアの大地と空とそこに生きる私たち〜(徳島県立美術館、9/21)

アーティストが世界をどう見ているか、そういう見え方が、作品世界に当たり前だが如実に反映されていく。ペーソスとユーモア、十分な質感を伴った存在感。ほとんど知らなかった作家の作品だが、徳島のちょっと行くには不便な美術館で、湧き上がってくる幸せな感情を抑えられなくなる瞬間が何度もあった。

9月17日と21日の項目を。

 

東京都交響楽団&アクセルロッド&コヌノヴァ(東京芸術劇場、11/12)

コヌノヴァのシベリウスが予想を遥かに超える情感豊かな演奏で感心した。しかしなんと言ってもショスタコーヴィチの5番。これは歴史に残る名演ではないかと思う。

 

・ヴァディム・ホロデンコピアノリサイタル(豊洲シビックホール、12/5)

ジェフスキーの不屈の民変奏曲。ウクライナを代表するピアニストが、感情過多にならずに理知的に、しかし、多彩な音色と圧倒的な技巧を駆使して、演奏した。圧倒されてしまった。「団結した民衆は決して破れることはない」。

12月5日の項目を。