アートを旅する 2022年12月上旬

・藤川叢三展(旭川駅彫刻美術館ギャラリー)

彫刻美術館との同時開催らしい。藤川の彫刻は若い時から何度となく目にしてきたが、その少しとぼけた表情もゆるいフォルムも粗い仕上がりもあまり好きではなかった。でもぼくが歳をとったからか、この深刻な時代の空気のせいか、しみじみと良い作品だなと思いながら拝見した。

 

・特別展「京に生きる文化 茶の湯」(京都国立博物館

 たくさんの茶器、茶に関わる様々な多角的な展示。面白かったが、そもそもぼくは茶器そのものへの関心がそれほど高くないのだなということも感じた。重要文化財や国宝・・・それにしてもぼくのような素人にも、良いものとさほどでもないものとの区別は割と容易だと思う。

・たましん歴史・美術館<東洋古陶磁展~やきもの超入門編~ [同時開催]小貫政之助の女たち>

 久しぶり。同じく、京都国立博物館同様、茶碗・古陶磁。やはりあまり興味をそそられないのだが、でも、おもしろいし、使ってみたいなと思う茶器がある。説明もとてもわかりやすかった。同時開催の小貫政之助の女性画はすこぶる面白かった。こんな風に描かれた女性たちは、嬉しかったんだろうか。

マリア・ジョアン・ピリスザ・シンフォニーホール

 引退を宣言したはずのピリスが、自分の好きな場所で好きな曲だけを弾くのだという。ピリスの音は小さい。しかし、これ以上ないほどの透徹な響きだ。なんだろう、ただただ美しい響きなのだ。もうシューベルトドビュッシーもみじろぎもせずに聴き浸った。技術的な衰えはあるのだと思う。しかし、これほどまでに美しい音をこの先もそう聴く事はできないだろうと思う。アンコールは亜麻色の髪の乙女。デ・ラローチャアルゲリッチ、そしてピリス・・・間に合ってよかったなと思う。あと何人か、そうだ、例えばクリスティーナ・オルティスを聴きたい。

ザ・キングズ・シンガーズ(ミューザ川崎

 クリスマスコンサート。主にはジャジーな選曲が多かったが、彼らの至芸に感動してしまった。いつかシャンティクリアを聴いたことがあるのだが、いやあ、また聴きたいと直ちに思うキングズ・シンガーズに軍配だ。


堀米ゆず子ヴァレリー・アファナシエフサントリーホール

 前半のバッハの無伴奏に痺れた。堀米さん、今や世界のトップのレベルに到達しているヴァイオリニストなのだな。後半はアファナシエフの轟音との相性を懸念したが、いや、一流同士の見事な真剣勝負だった。ブラームスの雨の歌は、ぼくがこれまで聴いてきたどの演奏とも違う、個性のぶつかり合いが昇華していく名演だった。


・ヴォルフガング・ダヴィッド&梯剛之東京文化会館

かつて満員のkitaraで梯を二度聴いた。あれから20年経ったろうか。久しぶりの梯さんは、ピアノを美しく温かく響かせる唯一無二の存在だった。宝石のような音がピリスだとするなら、梯の美音はもっと素朴な鐘の音である。これもまた現役ピアニストの最上位の極上の音であるとしみじみと感じた。相方のダヴィッド氏は居合切りのような野武士のような太い存在感のある音で、これもとても良かった。小ホールに半分もいない客。だが、本物は、そんなことに関係なく、素晴らしい歌を聴かせ続ける。また聴こう。


広上淳一&札幌交響楽団「第九」kitara

 第九は充実の演奏だったが、その前のワーグナージークフリート牧歌がとても良かった。弦楽セクションを中心に札響のレベルの高さを存分に感じた。第九はなんだろう、少し食傷気味かも。特に理想のソリスト陣に出会うことは難しいな。今回はどの方もレベルが高いが、でもテノールの声質はどうもぼくの好みではなかった。第九ではしばしばそういうことが起こる。それにしてもあの終演後のブラボーはなんだろう。それをやって誰が喜ぶと思っているのだろう。コロナ対応でブラボーをするかしないか、ではない。アナウンスでやめてくれと言っているのに、ブラボーをやって、例えば演奏者が喜ぶと思っているのだろうか。